いつもカノンにはからかわれたり、馬鹿にされっぱなしだから。
不思議に思って一度訊ねてみたことがある。
「なんで俺の技がアクエリアスのものだと解ったんですか?」
「そんなもん、解るに決まっているだろう。氷の闘技ばっかり使いやがって。すこしはオリジナルな技を考えてみろ。それじゃあカミュそっくりだ。」
なんて言われた。
その時にはカノンの技がどういうものかは知らなかったのだけれども。
(あとで知ったオリジナルの技は一つだけだった。くそうあのオヤジが!)
だが、『カミュそっくり』という言葉にちょっとだけ心が浮き立つ自分がいる。
そしてカノンは案外口うるさく言う。
「タバコはやめとけよ。闘いに肺活量は必要だからな。 ま、酒と色事はほどほどでもいいけどな。」
『煙草はやめておきなさい。』いつかそんなふうに言われたこととそっくりでつい笑ってしまう、カミュはこの人の様に酒と色事は良いなどと余計な事は絶対言わなかったけれども。
俺はくすくすとわらってこう答える。
「同じ事を聞いたことがあるような気がします。」
「俺は兄貴から口を酸っぱくして言われた。あいつは大嫌いだが、一理ある。」
そんな事をいう瞳は懐かしさに溢れていて。『大嫌い』なんて言わなければいいのにと思う。
ときおり、カノンは俺がいかにも興味を持ちそうな事を言ってくる。
それも俺がすごく忙しい時になんだかふらっとやってきて横で呟く。
「...聖域に来たばっかりのカミュは可愛いかったんだよなあ。雪みたいに色が白くて遠目にも目立つ紅い髪の色をしていて。でもあいつさ、顔に似あわず怒るとちっちゃい氷の破片をばんばん飛ばすんだぜ。酷くないか?」
そんな師の幼い頃の姿は容易に俺の心の中に浮かぶ。でもなんで今声を掛けるんだ。
興味なさそうに俺が新しい技の習得を続けていると。カノンは追い打ちのようにぼそりと囁く。
「...よかったらもっと面白い話をしてやってもいいんだけどなあ。」
そういいながらよいしょっと立ち上がり、背中を向けて歩き出しながらこんなことを言う。
「忙しそうだからここで退散しようかなっと..。おっと、邪魔したな。」
そんな、今では関係のない思い出など聞いてなんになる..と思いながら。その背中に向かって
「...今日の訓練はおわりました。」
と俺はちいさな嘘をつく。ああ、くそ。ガキの俺はまた負けた。
どこまでも広い北氷洋の海面を眺めながら思う。
海闘士となって、以前の俺など捨て去ったはずなのに。
なぜか俺は領海を見張りながら二つの暖かい小宇宙を確かめることが日課になっていた。
この海の上に俺の大切な人たちがいる。だからここを守るのだと。
誰にも知られてはならない心のうちを押し隠しながら鱗衣を纏っていた。
不安な未来が足音をたてて近寄って来るのをひしひしと感じながら。