さらさらとしたカミュの紅い髪がぱらりとベッドに散らばる。
恥ずかしげに薔薇色に染まる頬とルビー色の瞳は
確かに生きている人間のそれだ。
お前がそれを望むのなら
天蠍宮を月明かりが照らす春の宵。
俺たちは蘇ってからずいぶん経ってやっと睦あう事ができた。
だから、あまりに嬉しくて。
俺は余裕なんて欠片も無く滑らかな肌のそこかしこに夢中で触れ。
頬に。瞳に口づける。
唇に感じる暖かい皮膚の温度、何度も交わしたはずの唇。そして躯のはずなのに。今はひとつひとつ優しく愛撫する手順さえこんなにももどかしい。
はやくお前の躯に埋もれてしまいたい。
そして確かめたい。その生きている証を。体温を。躯の熱を。
冷たくなったお前を宝瓶宮で見つけたあのときの絶望的な喪失感。
もう厭だ。あんな想いは。
カミュ。
おまえと逢えなかったあの辛い時間を少しでもいいから縮めたい。
あまりにも猛って仕方が無い俺自身をもう押さえきれず、まだ少し硬い入り口に肉塊を沈めながら貪るように荒い息で口づけを繰り返す。すると。カミュが静かに俺の腕に手を伸ばす。
そしてその白い指先で俺の手をとり自分の首に添えてこう云ったんだ。
「ミロ。たのみがある」
「なんだ?」
いつもの通りの生真面目な顔。その瞳は透き通る程に奇麗だった。
なんだってかなえてやるよ。おれにできることなら。
そう思った直後、考えてもいなかった言葉が唇からこぼれ出る。
「わたしの首を締めてくれ。」
一瞬俺は沈黙した。
そして体中の血液が逆流して一回頭まで上り詰め、そのあとすうっと背中が冷たくなる感じがしたんだ。カミュ。何を言ってるんだ?
ゆっくりとしか動かない脳を一生懸命稼働させ考える。
そんなことできる訳が無いだろう?
あのとき一時の激情に駆られたとはいえ、同じようにお前を傷つけようとしたこんな俺に。
するとカミュは俺の表情を察したように、しかしきっぱりと言う。
「いいのだ。ミロ。これは私自身への戒めでもある。」
そしてその白く細い喉から囁くように言葉を続ける。
「あのとき私は一瞬だけ。お前になら殺されてもいいと思った、こんな私を..笑うか?」
戸惑ったように揺らぐルビーの瞳。
首をかしげて言うお前の艶やかな紅い髪が揺れる。
お前を笑える筈なんて無い。
俺だって嘘はつけない。
そうだ、あのときいっそこの手で縊り殺してしまいたかったんだ。
宝瓶宮で俺の手から離れてしまった冷たい躯を永遠に自分のものにするために。
あのときの自分の手は怒りに震えていた。だけど今。目の前にある暖かい頸動脈にのばすこの手は恐れで震えている。
「いいの...か?」
「ああ。いいんだ。」
優しく笑うお前の内腔はとても暖かくて。
だけどきっとカミュは知らない。判っていない。
そんなお前自身のあまりにも純粋な残酷さを。
なんでそんなにも真っすぐな瞳で、俺に酷く辛い要求をするんだ。
お前はこの行為を自分への戒めだと言う。
俺に首を絞めろという。
だけど、おれがあのときと同じ事をする苦しみを感じている事はきっとお前の頭の中には無いんだろう?
この、えぐり取られるように痛い胸の痛みをお前は判ってはくれない。
はは。だけど。惚れた弱みかな。
そんなところも好きなんだ。
俺の心の疼きなんて、たいした問題じゃない。
ああ、いいよ。つきあうよ。お前がそれをのぞむのなら。
だけど、俺は俺のやり方でやらせてもらう。
そう思いながら、俺はカミュの白い喉をぐっと締めあげた。
少し苦痛に歪むお前の顔は、後悔している筈なのになぜか俺の情欲に火を注ぐ、自分のそんな情念にたじろぎ手を一旦離すと。
ごほごほとむせる白い喉仏が上下し、擦れた声が言う。
「だめだ、もっと。」
「--わかった」
俺は喉仏にも噛むように口づけして痕を残す。
そしてまた頸動脈を圧迫する。
両方圧迫すると。頸動脈洞反射がおこっていわゆる「落ちる」状態になってしまうこれは戦闘の基本だ。
だからそんなことはやらない。
白く細い首をぐっとまた絞める。
痛みを受け入れようと必死に喘ぐお前の口角から溢れる唾液。
俺はそれを丁寧に舐めとり、また深く口づけする。
すると、びくりと細い腰が震えて、内腔は俺を締め付けた。
そう、俺は俺のやり方でやる。
お前に与えるのは痛みだけじゃない、苦痛と快感。その両方を躯に刻み付けてやる。もうぜったいに忘れないように。
快感を同時に与えるように首を絞めるには、あくまで脳の酸素量を減らすだけでいい。
ゆうるりと手に力を入れると、ふっとカミュの眼の焦点がぶれ。
わなないた唇が小さな喘ぎをあげ、びくりと反応する躯には苦痛と悦楽が突き抜けていくようすが見て取れる。
快感が同時に襲うなんて思っていなかったんだろう。カミュの瞳に混乱が透けて見える。なぜ...?といった表情でスローモーションのように俺を見上げるルビーの瞳。
何度も。なんども。決して喉の真ん中に入らない様にしながら力を込めた。強弱をつけ。しかも時折外す。時折力を多めに加えるのは効果的だ。
ぐっと手の力を強めると。俺自身を締め付ける内腔がひくつき。
...ふ...あっ...
と。悲鳴のような細い声が端正な口元から漏れ、白くすらりとした足の痙攣が激しくなる。
俺自身を締め付けている内腔が少し緩み..そして突然痙攣した様に締め付ける。瞳孔が開く寸前までまた締め付け、がくがくと震える躯を思い切り抱きしめる。
挿入を繰り返しながら首に加える力に強弱をつけていると
あ..あ...っ!
と長く一言叫び、しなやかな躯が跳ねたように反り返る。
白いからだが硬直したようにつっぱり。言葉にならない声を発しながら激しくびくびくと痙攣する。
...達したか..?
いや。しかし、放出はしていなかった。
後孔の刺激だけでいったのか、ドライオーガズムなら男の躯でもこのまま何度でもいける筈だ。
おれはふっと笑ってまた手首に力を込める。
何が起こったのかわからない..とでも言いたそうな、放心したようなルビーの瞳から、自分の躯が翻弄され、快感がコントロールできない混乱に軽い恐怖を感じている様子が分かる。
おれはそんなお前の顔が好きだ。
まだまだ、何度でも。やってやるよ。
こんなことで、お前の傷がすこしでも和らぐなら。
心の中で泣きながらだって。俺の心が壊れたって構わない。
どうしてこんなに好きなのに。
せっかくこうして二人躯を寄せあう事が出来るようになったのに。
俺たちは。
なんでこんな関係になってしまうのかな。
でも。あまりにも淫らで何かが壊れたようなお前の整った頬を見ると、自身を締め付ける感覚とあいまって。おれも心のどこかが麻痺してしまうんだ。
「...ころして...」
喘ぎながら、吐息のようにカミュは哀願する。
「ああ、いいよ、なんどでも。おまえがのぞむなら。」
おれは、わらってこう答えた。
FIN
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2010/4