ここだけの秘密だが、私は甘いものが好きだ。

 弟子達の手前、あまり持って帰らないようにしているが。

 マカロンのさっくりとした食感も、サヴァランのラム酒の芳香も大好きだ。

 

 でも、最近。それ以上に欲しいものが、できてしまった。




 ---- Un gateau sucre ---




 聖域に帰ると、私はすこしだけミロに我が侭をいう。

---食事が美味しくて、特に、dessert(デセール)が美味しいところに行きたい。

 もちろん修行地ではジャガイモばかりの食事の日も有るし、アザラシだって食料にする。だが、彼といるときぐらい、我が侭をいってもいいだろう?


 最初泊まったオーベルジュは私の趣味だった。一回だけ、お気に入りの宿に連れて行ったら、ミロはアンティークの家具にとても喜んで。

「おまえはそういう部屋にいると似合う」なんて言ってくれていた。何処で生まれたのか、記憶もさだかではない、もしかしたら私生児かもしれない私たちだというのに。


 大抵は高い天蓋つきのベッドがある部屋で私たちの行為は行われる。私が最初に好きだと言った中世ヨーロッパのような美しい家具の揃ったホテルをミロは好んだ。理由は?とたずねると、お前が奇麗に見えるから、と返事がきた。まったく、そのようなこと、気にした事もないというのに。


 そしていつからか、両腕を縛られてどちらかがベッドに括り付けられるのがお互いの約束になった。私の方が括られる回数が多いような気がしたが。


 だから、といっては可笑しいが。今、私はくすぐったく快感を揺さぶられ、感じる声を必死で押し殺している。このような行為を甘んじてうけているなど、それこそおかしい。

 なぜならこの腕を傷つけないように縛っているバスローブの紐は私の力では簡単に引きちぎれるほどに弱く、抜け出して反撃をすることも可能だというのになぜこうして身を任せてしまうのだろう。だが、そんな脳裏の疑問は脊髄を這う快感に蕩けて雲散してしまう。

 ミロは決して乱暴な愛撫は行わない、むしろ焦れったくなり自らの欲望の深さを思い知らされる程に緩慢に行なう。足の親指のつま先を湿った舌先でねぶられ、咥えられ、そのまま背中までゆっくりと舐られた、ただ、それだけでじっとりと汗が滴る。


 ベルベットの目隠しをされた柔らかい闇の中で、ロココ調の羽扇の表面だけが静かに触れる柔らかい愛撫が延々と続く。

 柔らかく、くすぐられる感触、その部分に五感が研ぎ澄まされ、触られている皮膚だけに意識が集中するが、じわりとかいた汗が乾く瞬間に、つうと背中をするどい爪で引っ掻かれ、吐息を吐き出すこともままならない。

 はいつくばったまま開かされた脚にはほんのすこししか触れず、焦れて緊張と弛緩を繰り返す下肢が、それ以上の刺激をもとめてだんだんに震えてくる。

 この先に、どんな事があるかと解っていて、それを待ちわびて、自分から脚を開いて、嬌声をあげる…。いつからそんな自分になってしまったのかなど解らない。すると突如、背中に、熱いオイルが流された、暖められたそれの薫りは官能的なヴァニラにウッディなミドルノート、その熱さと想っても見なかった快楽の波に背を逸らす。

 油を垂らし、塗り進めながら、ミロがいう。

 おまえの皮膚を触るのって、だいすき。だってきもちいいし。ねえ、なんでそんなに背中を反らしてるの? いいの?

 痛い行為よりも、じんわりとオイルや蝋燭を落とされていく方がつらい。まるで、少しずつ、お前の手にしか反応しないように躯を変えられていってしまうようで、欲望の深淵がその先の闇の下に横たわっている。

 背中をつうと垂れる熱いオイルの感触に反り返る背に、みだらだな。とかけられる声はすこし冷たい方がいい、私の熱をさましてくれる。しかし、反面嬉しいと思う自分がいて、佳い眺めだな。と蔑む言葉さえ私の躯を熱くする。なんだろう、このアンビバレンツは。ときには紅い爪が背をつうと滑り、苦痛の声を漏らすまいと噛みしめた唇を心配して「痛かったか」などと蠍座の男は気遣う素振りをする。自分で痕をつけたくせに。


 たまさかには、そのままベッドの柱に反対側に縛り付けられ、 ベルベットの漆黒の中、前から脚を開かせられる。「奇麗だ、本当に、このままだれにも渡したくない」というきわめて直截的な言葉を浴びせられ、ゆっくりと敏感な内腿をなでられては、その甘い囁きと緩慢な愛撫に、恥も外聞も無く涙が止まらなくなる。だが、たいてい、そんなときのミロは、ぎりぎりのところで私の脚に施す快楽を止め、目隠しをはずす。

 急に明るくなって眩しさに目を細める私の唇はおまえのそれでゆっくりとひらかれる。侵入してくる筈の舌を静かに待っていると、甘いマカロンが一つ放り込まれ「上手にできたらもう一つあげるよ」など愛しくて憎たらしい口がいう。

 甘い砂糖菓子のその先の更に甘美な行為を既に識ってしまっている私の唇は、何にも逆らわず、そのまま彼自身を舐め、銜え、男として能うかぎりの快楽をあたえる。するときっとミロは優しく私の頭をくしゃりと撫で、よく出来たな。といってはマカロン以上の甘い口づけと、その先の快楽をくれる筈なのだ。

 ああ、何というていたらくだ。

 はやく、dessertがほしい。なんて、いえないでは、ないか。





FIN

2012/9/23


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