屋敷内にさんざめく招待された人々の群れ。

暖かい料理と白粉の香りが漂うすこし汗ばむほどの室内。

今年のノエルはカミュの母国での女神の警護だった。




---Bow tie---




楽な任務だったが、スーツとパーティは苦手だ。肩が凝る。
俺たちは女神の用意したホテルの部屋へもどってほっと一息ついた。
ルイ16世様式の家具で統一された部屋は装飾的ではあるが落ち着いて趣味がよく。

俺は猫足のソファーに高価そうなジャケットをばさりと放り投げた。

柔らかい香りが上品に室内に漂う。
ルームフレグランスだろうか。
...いや、こいつの身体や髪からのものだった。
「女のような匂いだな。」
近寄ってくんくんとジャケットの匂いを嗅ぐと。
「..そうか?」
と言って、カミュもジャケットを無造作に脱いだ。
そういえば女神の依頼を断りきれなくて、女性達のダンスの相手をしてやっていたっけな。
「...ああいう場で断ったりできないもんな。立場上...さ。」
わざと大きくため息をつき、少し拗ねた視線で下からカミュの表情を眺めると、ほろ酔い加減の俺のネクタイに長く繊細な指がかけられた。
「...なんだよ、カミュ。」
指をかけた張本人のルビー色の瞳も同じく少し霞んで熱を持っていて。
少しだけ、いつも見せないような悪戯な表情が瞳の奥に透けて見えた。


するりと赤い爪でほどかれるサテンタイの滑る感覚は指先での繊細な愛撫にも似て。その仕草に応じようと俺もシャツの襟を緩めるつもりで自分の首元に手を伸ばしたが、珍しくカミュは母国語で『Non』と応え。
静かに微笑んで、シャツを脱ごうとする手の動きを封じ込め、俺の視界をサテンのタイでくるりと遮った。


スプリングの良く効いたベッドに転がっても

柔らかな絹に埋もれたサテンの闇はまだ俺の目の前を遮ったままで。
視力を無くした両手はいつもより敏感にお前の滑らかな火照った肌を直に感じ鋭敏になった嗅覚は知っている筈の芳香を求めて彷徨う。

俺の唇に羽のように触れては離れ、また悪戯にキスしては離れる暖かい唇。
それを捕まえようとして、抱きしめようとして。
すり抜けられて、可笑しくなって、なんだかくすくすと笑って。
もう一度ベッドに引っ張り込もうとしても、
目隠しされてはそれもままならない。
香りのよい首筋に鼻先を埋めようとしても何度もかわされ。
ふうわり漂う低い声だけが、優しく耳をくすぐる。
「...je t'aime...」
俺でも知っている簡単なフランス語。
でも普段はどんなに乱れても決して言ってはくれないその言葉。
はは、俺がいつもじっと見ていると言えないくせに
こうして目隠ししていると案外大胆なんだな、お前。


だから、俺はそのやさしい声をずっと聴いていたくて。
いつでも解ける筈の。
目元に緩く結ばれたタイが、ほどけない振りをする。





FIN



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2011/12/25

拙宅にしては激甘ですが、クリスマスなので許してください!