机の上に酒やオードブル、デザートを広げながらちょっとしたことを思いついた。

「カミュ、ちょっと座って目をつぶって?」

 そういって、キモノローブについている伊達締めをするりと解いて、カミュの目にくるりと巻いた。

「…なにをする?」

「俺のこと、このまえネクタイで目隠ししただろ…?そのお返し。」

 すると目の前の躯はぴくりと動いて頬がすうっと紅くなり、明らかに緊張しているのを感じた、あんまりにも照れているので、なんだか可笑しくなって。

「まずは新年を楽しもう、口に入れたものを当ててくれよ。」

 と苦笑して答えた。


 まずは乾杯からだった、神妙な顔をして座るカミュの鼻先にワイングラスを近づけるともう香りで解ってしまったらしく、すぐに機嫌をなおした声で。

「クルミかイチゴのシャーベットが欲しいな。」

 なんて言いだした。きっとそういうとおもったから、俺はイチゴのソルベとあわせて一口ずつスプーンで開いた唇に入れて行くと、満足そうな猫が喉を鳴らすように白く細い頚の喉仏がゆっくりと動き、小さな舌で唇から溢れた分をぺろりとなめる。ドン・ペリニヨンヴィンテージ 2002---あまりにも有名だが、まあニューイヤーにはうってつけのシャンパンだろう?

 次はサケだ、まず香りを嗅がせると「ん?」という顔をするが興味を持ったようで、口に含むと、穏やかで濃い風味がひろがった、白鷹というらしい。伊勢神宮という神様への捧げものだそうで店の人に勧められたものだ、これはお互い気に入って二人でちびちびとテリーヌに手を出しながら飲んだが...結構強いな。


 ニホンシュを一本空けたあたりから、ワイングラスと俺の口とスプーンと手はどれも意味を成さなくなっていた。要するにカミュにとってはどれがどれでもよくなって来ているようだった。

 次も匂いですぐ当てられた。ギリシャのウゾだ。カミュは目隠しされている事を楽しみ始めたようで「お前の酒だ。」とかなんとかいいながら、俺の呑む口に舌を入れて勝手に舐め始めている。

 まったく、無自覚程厄介なものはない、お前はそれで良くても、襦袢姿で迫られる俺の身にもなってくれよ。

 でもこれを食べないとギリシャの新年は始まらない、俺はある菓子を切り分け、手探りでカミュに一つ選ばせる。カミュは一人で食べるのはいやだからと駄々をこねる動物のように一切れ口にくわえて、俺と一緒にたべることを強要する。

 すこし赤みが増した頬と唇にくわえられた菓子をめがけて、俺もちょっと獰猛にカミュの口内をまさぐると、お互いの舌の先にかちりとなにかが当たった。

 ケーキの中のコイン、ラッキーの印だ! 俺はこどものように嬉しくなる。

「ヴァシロピタ、だな?」

 とカミュが言い。おれも「うん。」と頷く。

 ギリシャの新年で1年を占うお菓子なんだ。

「それならば私の国にもガレット・デ・ロワという人形が入った菓子がある。」

「同じだな。」

「そのとおりだ、一緒だな。」

 一緒に幸運を確かめあうと、食欲の吐息が、欲望の吐息となる瞬間に変わった。

 水瓶座は物質法則を変動させる力を持っているが、時々俺は、お前の吐息や姿態には欲情の臨界点を変える力があるのではないかとおもうことがある。

 舌の上の甘い菓子はその時々によって俺の融点や沸点すら狂わせ。固い態度のお前の緊張が口の中の甘いフォーチュンのように溶けて行く様をみて、すこしだけ限界だった俺は、ちょっとだけ乱暴にふざけてみたくなった。


 机のうえにカミュの上半身をうつぶせに押しつけ、覆いかぶさって唇を塞ぐ。

 こういうときキモノとはよく出来たもので、合わさったローブの隙間は丁度俺の利き手がするりと入る位置だ、そこから這わせた手が、敏感に屹立する胸の突起を見つけるまでの時間はさほどでもなかった。

「ふ...あ...。」

 きゅ、とそこを捻ると呻くようなちいさな嬌声が漏れた。

 着物の裾をまくり、膝上まで露になった白い肌には足袋が引っかかったままで、ゆっくりと何度も内股を撫でて行くと俺の手の動きに合わせて長い足が痙攣する。

 普段なら男性器にも刺激を与え、同時に快感に導いて行くのだが、今の俺は少々嗜虐的な気分で、滑らかな皮膚が触るたびに泡立っていく感覚を楽しみながらも絶対に局所には触らず、すれすれのところを繊細に撫でて行く、逆にもどかしそうに快感を求めて中心を触ろうとするカミュの手首を押さえ込んで机に張り付けた。

 わざと着物は取らず、目元の帯締めだけをとると、リビングの大きな鏡に痴態が映る。自身の姿を見せつけられて、カミュの鳴き声が一層高くなった。

「やめ...脱がせ..ろっ...。」

 俺はそんな声は聞こえない振りをして、ただ襟足をすこし広げ、机にうつぶせにした状態で裾をまくり上げ一気に貫く。いきなり挿入された躯は痛みと快感でさらに震え、まとわりつく着物の絹が美しく波立つ。裾の布のせいで挿入部は見えないが、自身の姿がよく見えるように角度を変えて鏡に向かわせた。薄暗い間接照明に照らされてはだけた襦袢だけの姿はなお一層の淫糜さを放つ。

「ん..ふ..。」

 呻きながら涙をためるお前の瞳に、鏡の向こうから睨み返されながら。

『C'est une attraction!(おあいこだ!)』と言いかえされた過去が蘇る。

 ルビーの瞳にうっすらと浮かぶ涙、その宝石はあのときから何度でも俺を魅了してやまないんだ。

 俺はキスを雨のようにおとし、そして後孔の刺激だけで達するまで、徹底的に後ろからの抜き差しを繰り返した。前からの放出なんてゆるしてやらない。その涙が随喜の色に変わりぽたぽたとおちるまで、そして細い姿態の痙攣がとまらなくなるまで、俺はその躯を貪り続けた。


 正気に戻ったのは翌日の昼頃だった。

「もう、散々だ。あんなやり方をするなんて。」

 のろのろとミネラルウォーターに手を伸ばしながらカミュがいう。

「でも、佳かっただろう。」

 と答えるとむくれてシーツに潜り込み、顔だけだして訊いて来た。

「ところでデスマスクはあのときなんと言ったのだ?」

「あー、あのこと?『ヒメハジメ』っていうニホンゴ知ってるか?って。」

 ふーん、とカミュは手元の電子辞書を持ってけだるげに調べ。


 その意味を見たとたん、真っ赤になって、またシーツにもぐりこんだ。


 そして、すこし間が空いたかと思うと。

 「ばか!」という声とともに白い枕がとんできた。









FIN

topへ

2012/1