すこし遅い朝、目を覚ますと。

寝乱れたベッドの上には私しかいなかった。

静かな、見慣れた。天蠍宮の...天井。




 Dildo 2 ---side  Aquarius---





脇のスツールを見ると

「勅に呼ばれた。ゴメン。」

という走り書きのメモがあった。

ぽつねんと、広いベッドに取り残されるちょっとした寂しさ。

だが、まあ。こんなことは今日に限った事じゃない。


リビングルームには、カフェオレとパンがあった。

乾いた喉に一気にカフェオレを流し込み。

けだるい躯を引きずって浴室に行く。

ざあざあと水を浴びて、髪を拭きながら部屋へ戻ると。

実は自分が着るものもないことに気がついた。

昨日着ていた服は...ちょっと自分でも嫌になるくらいいろいろな体液がついていて

まともに着て歩けるものでは無くなってしまっていた。


仕方が無い。と思い勝手知ったる天蠍宮のクローゼットをあける。

少し大きいが、一番無難そうな白いシャツを借りて着る。

通した袖からふわりとミロの匂いがする。


...そこで、あるものに気がついた。

割合ときれいな箱に..そう、いうなれば化粧品の箱のような中に入れられた何か。

横には使用説明書が書いた紙がたたんで置いてある。

私は興味をもち、それを広げてみた。

「---これは成人のための娯楽用品であり医療品です。使用目的以外のご利用によるトラブルについて弊社は責任をとりません---」という一文から始まって電池の入れ方、注意書き、更には使用後の保管方法まで書いてあった。


ああ、なるほど、昨日のあの道具か。

しかし、こういう物にも案外と真面目な説明書がついているものなのだな..。

と、興味深く思いながら箱を開けてみると。

男性器を模したそれ、があった。

ミロは律儀に使用後の手入れ方法に従って洗浄したらしく、それは乾いた清潔な布の上に置いてあった。

昨夜は暗かったし、見る余裕など無かったが、よく見ると巷でいわれているようなそんなに毒々しい形状ではなく、薄い色をした控えめなものだった。

そのなんだか一見可普通の無機質なモノと昨晩おそらく狂ったような痴態を晒した自分、その二つのものが一瞬にして脳裏で結びつき、躯がじわりと熱を帯びる。

....こんなもので、あんなに乱されてしまうとは。

ちょっとした恥ずかしさ半分、自嘲半分でその道具を手にとってみる。

単純な構造のリモコンを押すと。ウイ..ンとそれは音をたてた。


すこしそれを眺めてから。私はおそらく誰でも考えるごく単純な興味を持った。

---自分でやってみたら、どうだろうか。


カフェオレは温かかった、だぶんミロは出たばかりでまだ戻ってこない筈だ。

私はそれを持ち、さっきまで寝ていたベッドに戻って縁に座る。


静かに音をたてて動くそれを見ているうちに、やはり昨日の自分はいつになく乱れてしまったようで、ひどく恥ずかしい思いがした。

だが、こんなものを見るだけでもう昨日の熱を思い出して焦れている自分がいる。

そんな羞恥が沸き上がるのと、私の中心が鎌首をもちあげはじめるのはほぼ同時だった。

そっと自分自身に手を伸ばし、上下に動かし始める...彼の手を想像しながら。

ミロの手は。大きく、暖かく。大抵いつも焦れったい程に優しく私自身を扱う。

たった数時間前に精を放った筈なのに。ゆるゆるとした刺激とベッドに残る昨日のお互いの残滓の匂い。

そしてシャツから漂う彼の香りが、静かな興奮を呼び起こす。

シャツが擦れるたびあたる乳首にも痺れるような甘い痛みを感じる。

いつの間にかその部分も敏感に尖っていた。

「...ん..はあっ...」

小さな声がおもわず溢れる。

上下に動かす手の中で間もなく硬度を増した私自身の中心からはとろりとした液体が溢れはじめる。

ディルドに濡れた液体を塗り付けてみる...昨日彼は何といっただろうか。

  ---カミュ。もう、我慢できないよ----

脳裏にフラッシュバックするミロの切なげな声。

「...わたしも...もう...」

そう、呟いて、ゆっくりとディルドを自身にあてがう。

ミロ自身よりもすこし柔らかいおそらくゴム製のそれ、は。

太ももまで垂れた体液と塗り付けた瀞みですんなりと内腔に入った。

「...う...くっ...」

だが、自分で入れても思ったようにすぐに佳くなるものではなく。かなり激しい圧迫感と振動を感じる、こういうものはもともと男性用ではないのだろう。

あまり深く入れすぎるとすこし気分が悪くなるような振動が腹部に響く。

ギリギリまで引き抜いて、彼ががいつも愛撫する浅い場所までもっていくと。

「...やは..あ...」

甘い衝撃がじわりと腰を熱くする。

震える手で前への刺激をさらに行うと。もう、放出してしまいそうだった。

おもわず、シーツをぐっと握りしめ。居る筈のない彼の名前を呼ぶ。

「あ、はあ...ミ..ロ--っ--。」

「...何?」

突然背中越しに聞き慣れた声が返ってきて。かたり。と背後で音がした。

私は振り返る事も出来ずそのまま固まってしまう。


いたのか..?  いつから..? どうして..?


次の瞬間、ひやりとした金属...聖衣の感触と大きい腕に強く抱きすくめられ。

私は混乱と恥ずかしさで頭が白く霞む。

ようやく擦れる声を絞り出し。

「...ミロ、いつから。」

と訊ねると。

「さあね。」

背中からくくっと笑う躯の振動が伝わり、ぐっと頤と躯を反らされる。

目に入ったのは聖衣を身に纏った蜂蜜色の髪と、闘いの興奮の余韻をのこした深い蒼い瞳。

「おまえさ、いくら俺の部屋だからって気を抜き過ぎ。気がつかないなんて。」

そういってあまりの事に硬直する私をからかうように頚にキスをしてさらにいう。

「...やっぱり。ソレ、よかったんだろう...?」

かあっと頭まで血が上り、恥ずかしさで全身が熱くなり。よくわからない言い訳が口をつく。

「...起きたら、お前がいなくって。そして、クローゼットをみたら..。」

そんなふうに慌てて言ってから、耳まで赤くなる。

するとくくっと笑ってミロが返す。

「さっさと勅が終わって戻ってきたら、こんな事になってるなんて思わなかったな...。」


そういわれ、更に恥ずかしさが募る。

しかも、異常なことにそんな受け答えをしながらも私の後孔のものは静かに音をたてて震えたままだ。

悦楽は動くことができない私の中で熱く暴れたまま、留まっている。

ミロは、もう我慢できないとばかりにぐいと私の唇を後ろから強引に塞ぐ。

激しく口腔内を求められ、蕩けるような口づけに身をまかせる。


ぐちゅぐちゅと音をたてた、息も出来ないような長いキスのあと。

いったん唇を離しミロは私の頬を挟み、謳うようにしずかに嗤っていう。

「...さっき、もし俺以外の名前を呼んだりしたら...」

そして、戦闘の興奮にうっすらと残忍な色を乗せた瞳でこう続ける。

「...そのままめちゃくちゃに犯して殺してしまいたいと思って、お前の姿をみていた。」


そうやってころされるのも...わるくないな。と。

その瞳を眺めながらうっとりと想う。

しかし口は、意地をはって違う言葉を紡ぐ。

「...できるものなら...やってみろ。」


だがその虚勢は当然のように無視され。

冷たい金属を纏った手で大腿をひらかれる。

「脚、もっと開いてよ..。イクところが見たい。」

機械の振動に揺さぶられ、自慰の場を見られて考える間も与えられず。

陶然として言われるがままに両脚を広げると、ミロはヘッドパーツだけをはずして私の間に屈み。

聖衣を脱ぐ時間も惜しいと言った顔で、屹立を舐め始める。

「...ふ..あ。」

ミロは飢えたように唾液の音をたてて。上下にしごき、吸引し、敏感な先を舐め、奥までくわえこむ。

「やめっ...。聖衣を着たまま...など...不敬では..あっ..。」

そう、自分が言っていることばなど、もう意味を成していない事など解っている。

内股に時折冷たい聖衣があたり、ぞくりと駆け上がる快感が何度も行き来する。

「..や...あ...ああっ---。」

ひやりとした金属の感触と激しい口淫と、後ろからの刺激に激しく躯が震えあっけなく私は放出してしまう。

ぶるりと躯を震わせると、黄金に輝く蠍座の聖衣に、白い残滓がまだらにかかっていた。


聖衣についた白濁した欲望、まだ乾ききらない返り血の鮮やかな赤。

そして欲望に残虐な色を滲ませた蒼い瞳の凄絶なコントラスト。


その姿に私は一瞬惚けたように見入ってしまう。

そうか。背徳者は私か。

だったら、もっと淫らに求めてみてもいいのかもしれない。

「ミロ。きて..くれ..おね..がいだ。」

と、懇願すると。

蜂蜜色の髪が揺れ、少しずつ聖衣が外されていき。

最後の聖衣のパーツがからん、と落された瞬間。私の後ろの機械は引き抜かれ。

そのまますぐ別の熱いものが私を貫き、私たちのあいだには隙間が無くなった。

ああ、やっぱりこの方がいい。お前がいい。


なぜ、お互い触れた肌から相手に溶けてしまえないのだろうか。

霞む視界の中そう思いながら、私はすこしだけ目尻から涙をこぼした。





FIN


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2010/11