--- ほしい?


 ボンテージ姿のカミュを天蓋付きのベッドに座らせ、後ろ手に縛って高く括り付けた鼻先で。俺は高級ショコラティエの美麗な箱をみせびらかす。


 ヴァニラ、シナモン、ドライオレンジの香り漂うチョコは一粒一粒が宝石のようで、あまり甘いものに興味がないおれでも、買いに行ったときにはなんだかワクワクしたんだ。




   Chocolat 




 実はカミュは甘いものに目が無い。 普段は、クールぶってカカオ100%のショコラしか食べないような顔をしているくせに。

 甘い物だけでなく、自堕落に閨房で物をたべることも、面倒くさいと不貞腐れて自分で食事せず俺の手から以外はなにも食べなくなることさえもある。今、目の前のお前は、弟子の前での偉そうな顔とはうって変わって、ショコラの香りに、餌を与えられる猫のごとく小さい舌を出して待ち構えている。お前の故国ではFête des amoureux (恋人達の祭) と云い、ギリシャでも皆が花を用意する聖バレンタインの祝祭。たまには俺たちだってチョコとシャンパンと花を散らして祝っても悪くはないだろう?

 さて、俺の持っているショコラは十五個。ちょうどスカーレットニードルと同じ数だ。


 何かを追求しだすと深く求めるお前。たとえそれが官能であっても、毎回深淵を覗かずには満足しないようだ。時には、共有する俺でさえ怖くなる程にまでのめり込む。そんな、妙にストイックで生真面目なおまえが愛おしくてならない。だから今日は、より深い融点を引き出すために、着せたボンテージと同じ素材の目隠しをしてみた。


 まずは一つ目のスカーレットニードル…いやショコラを口に入れる。

「これは最初の一粒。まずは何味かあててみてくれ」

 そういって小さな口に一つ目のかけらをいれる。と、先ずは神妙そうな顔をし、そのあと破顔してお前はこたえる。

「ミルクショコラで包んだアーモンドプラリネのフィリングだな」

 そういって、いかにも美味しそうにゆっくりと舐め溶かし、艶やかに潤う紅い唇に我慢ができず、深く口づけをして舌を差し込んだ。口内で舌を這わせ、上顎の粘膜を緩く擦るとびくりとお前の躯に甘い刺激がはしり、すり合わせた唇の端から落ちるアーモンドリキュールが、胸元までつうと垂れていった。

 フェイクレザーのキャットスーツは伸縮性もよく、 思った通りにカミュのすらりとした体格によく似合った。 俺の舌は甘いショコラを追って行き、スーツのジッパーを少しずつ下ろしていく。PVCレザーの上から触れられる感覚は一種独特だ。直接肌に触れられない感触のもどかしさと、ぴっちりと覆われた皮膚に触れられているかのような錯覚をする。知覚と脳のレトリックが起こり、冷たいフェイクレザー越しに触れた部分は冷たいビニル素材でありながらも熱が広がるような、何ともいえない、じれったい感覚が広がっているにちがいない。

 白くて平らな筋肉質の胸が徐々にはだけられ、急に外気に晒された皮膚は視力を塞がれている今、更に敏感になっているようだ。俺が首筋から胸まで焦らすようにゆっくりと丁寧に舐め尽くすと、細かく身体を震わせていたカミュの息は上がっていた。

「この程度で、もう感じているのか?」

 俺はわざとぞんざいに直截的な言葉で云い、軽く胸の尖りを囓ると、おまえは小さなため息のような嬌声をあげた。それにしても、俺が贈ったボンテージをきっちりと着てくるとは流石に潔いお前らしい。黒く反射するフェイクレザーと白い皮膚の対比にくらくらとする。いや、それも俺を籠絡する緻密な計算なのだろうか。なあ、教えてくれよ。


 ---- いつかの絶頂のとき、お前は夢うつつでいったな。『もっと、もっと罵ってくれ。もっと縛りつけてくれ。お前以外感じ無くなるように』そう願う唇の直情におれは戸惑ったこともあった。

「受け止めきれるか、なんてわからないよ」

「いい、たぶんお前だけだ」

 そんな会話を交わした気がする。確かにそうだ、今では解る。こんな立場の孤独、分かち合える相手なんてお前以外にいるだろうか ---。


「もう一個食べたければ、自分でやってみせてくれよ」

 するり、と。目隠しを取り去ると。急に明るくなった視界に瞬きした睫毛は、もう、うっすらと涙を溜めていた。放心した紅いルビイはようやっと焦点をあわせ、縋るように視線を絡ませてくる。悦楽の入り口で戸惑い涙する細い顎を、ちいさな乗馬用のパドルでくい、と持ちあげ、片方の腕の拘束具だけをはずした。

 すると、もう、欲情の行き場を何処に持って行ったらよいのかわからない、という風情で、お前は蕩けるように俺を見上げ、まるで焦らしてみせるように、恥じらいながらもゆっくりとボンテージのジッパーを下ろしていく。その爪の紅さと徐々に表れでる筋肉質の躯、白い皮膚が上気し、赤い爪とのコントラストが眩しかった。速い鼓動がことばの形をなすかのように、密やかなため息めいた嬌声が漏れいでる。

「もっと脚をひらいて」

 最高位の俺たちがこんなことをしているなんて、人に知れたら眉をひそめられるに違いない、が、このぐらいのカタルシスが無いと殺人などどいう稼業、どんな理由があろうと、そうそうやっていられない。そうだろう?仁も徳も備えた奴もいるだろう、だが俺は少々いびつだ。そしてこいつも。

 

 羞恥と、陶酔の最中に入ったお前は、限界まで開いた膝をMの字に曲げて、ゆっくりと耐えきれなくなった自身に手を伸ばす。それはもう見た目にも辛いほどに屹立していた。ジッパーの金属がひやりとあたって痛かったかもしれないし、その奇妙に冷たい感触に溺れていたかもしれない。その媚態におれはくらくらとしながら。だが、もし他の誰かにもこのさまを見せたら俺はきっと嫉妬に狂ってしまうだろう。そう想いながら声をかける。

「自分でさわってみて?」

 すると、蕩けそうになりながらも真剣な瞳がおれをがっちりと捉え。

「わたしを見ていてくれると誓え」

 という。わかったよとキスを落とすと。舌を絡めながら、俺の唇とカカオを味わいつくすように口腔内を漁り、音を立てたキスを繰り返した。自身に手をあてて上下に動かし、深い口づけをしながらも狂ったように首を振る、揺れる髪からちらりと見える耳まで紅く染め、俺のしらない言語で囁く。

「Regarde moi…。」

 そうやって、蕩けそうになって、舌足らずに母国語で話すお前が好きだ。そのうちにその言葉も途切れ途切れになってきて、子供のように鼻を鳴らして甘えた声を出し始める唇は、だんだん聞き取り難くなりながらも俺を求め始める。

「…Parlez moi d'amour」

「おれもだよ。好きだ。ねえ、そんな格好をみせてもいいの?」

 そう、からかうようにいうと。『お前以外には、ありえない』とでもいうように、濡れた瞳をあげた。白い肌が赤く染まるさまがよく見える。口づけ以上に何もしないと羞恥に押さえつけられてなかなか達する事ができないようだから。おれはおもむろに、おまえの乳首をぎりり、と捻じりながら苦しいまでに深く口腔内を貪った。すると手と腰の動きが激しくなり。カミュはあっというまにがくがくとふるえながら一度目の小さな絶頂を迎え、黒いボンテージが白い液体の香りと色で染まった。


 俺はそのまま優しく抱きかかえるように座り、両足をホールドして閉じられなくした。いや、実際、はずす事もできるはずなのだが、悦楽に没頭せんとして、含羞を抑え必死に脚を拡げる様が愛おしい。

 片腕をベッドに縛られたまま、自ら四つん這いになり。次のショコラを頬張ったその口で卑猥な音を立てながら俺の局所を恍惚として舐め始めると、おれもその躯に下から滑りこみ。逆にお前のものを、焦らすように舐め返した。するとくぐもった嬌声と悦楽で一瞬口が止まり、俺にはわからない言葉とくぐもった吐息が漏れる。口内で溶かした甘さの中には、すこしだけ、ショコラとはちがう苦い味お前の味が混ざっていて。腰が立たない程に責めたててみたくなる。


 もう、そろそろ耐えられないんだろう? 欲しいか? と思いながらも、俺はもう一つのリキュールトリュフをカミュの口に放り込み中でわざと音をたてて舌を吸い、下肢に手を這わせていく。

 這わせるのは、太ももからたいらな腹の周りだけ、局所に直接触ったわけではないのに、その場所はもう、耐えきれないほど張りつめていて、柔らかな先端を一瞬だけ撫でる、と。

「い、あ。ああああああ」と酷く淫らな叫び声がたかくあがった。付け根を握り放出を止めても、たらたらと溢れるぬかるんだ液体はにがくそして甘く。放出できない辛さを噛み締めてお前は震える。


 ホワイトガナッシュを口に入れたとたん、指を咥えられ、あわいのひとつひとつまで丁寧に舐め取られた。カカオの油分で滑らかに成った俺の指先は、もう一つの秘密の入り口をさがしあてると、悶える身体と吐息をぐいと押さえつけ、後腔からすぐの、つるりとしたちいさなマロングラッセのような弾力ある盛り上がった部分に到達し、そこを静かに撫でる。

 するとお前は、いかづちに撃たれたかのようにがくがくと全身をふるわせ、しなやかな背を反り返らせた。カミュは声も出せずに、放出しない絶頂の輪廻に何度か到達しているようだった。この状態になると男でも何度も達する事ができる。それは、もしかしたら快楽の煉獄かもしれない。

 焦点を失い放心しかけた唇の端からショコラがゆっくりと垂れていた。

 おれも、そろそろがまんできないものだから。

「ほしいか」と、口に出すのもじれったく訪ねると。案外と力強い手が俺の頭を掴み、もう、一人ではこの悦楽に耐えきれない、とでもいうように切なげにむさぼるようなキスをされた。その間も、片方のうでは縛られ高く上がり、両足は開き切ったまま硬直と弛緩をくりかえしている。

『いれてもいいか?』---なんてもう訊かない、俺たちにその必要もない。そしてもっとも感じる内腔の部分を再度強く擦る、すると、カミュはあられもなく高いあえぎを漏らし、腰を高くあげ、縛られたまま犬のように這いつくばりねだる姿勢をとる。躯はそう反応してさえ、おまえは負けじとちいさい声を絞り出しいう。

「こんなことは…」

「俺にしか、しない。か?」

 解ったもんじゃない。だが信じよう。

 もう一個のショコラは自分自身に塗って舐めさせていた。お前の秘所を刺激しながら受ける口淫の感触は、格別だ。甘いショコラとヴァニラとと汗と精液の香りが充満し、水音しかしない熱い部屋。


 最後に深く身を沈めるまで、おかしくなる程に愛しあった。貫いた瞬間、愉悦が電撃のように身体をつきぬけていく。ここは熱いカカオバターが出来る炉の中、愉悦と快楽が溶けて交わる終着点なのか。


 満足のうちに深く眠り、目覚めた翌朝。

 珍しく先に起き、コーヒーを煎れ、涼しい顔をしてカミュはこう云った。

「たしか、まだいくつかショコラがのこっているはずだが。」


 ああ全く、お前の切り替えの早さには脱帽だ。えーと、何個残っていたっけ。なあ、本当にチョコが欲しいのか?それともまだあの続きがやりたいのか。足りない?そうしたら今度こそ確実に仕留めて狂わせてみせるよ。


 もし、それが誘いならば。よろこんで乗るけれどね。





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2013/2/14(2/15微修正)