眼を覚ますと、白い天井が見えた。
驚いて起き上がろうとすると、左手が固定されていて動かなかった。
---Cast---
たぶん麻酔薬を打たれてぼんやりした脳でつらつらと考える。
あー、さっきの訓練の時かなあ...しまった。
練習時に怪我をする事なんてざらなことだ。そういえば一週間程前に左腕を怪我したんだっけ。
聖域の医務官から「少しの間は無茶をしないでさい」なんて言われてた。
だけど、無理だろう?
久々にカミュが戻ってきているときの練習試合で全力出さないなんて、さ。
だから、重量勝負では負けているアルデバランの拳でも怪我した左腕でおもいっきり受け止めたんだった。
ぐり、といやな感じがしてかなり痛かったけれど、そのまま試合を続けた。勝負は、どうだったのかなあ。
結果なんて忘れちまったけど、終了の合図とともにぶっ倒れたところで記憶は途切れている。
柔らかい夕日を背にして、アルデバランが大きな躯をすくめて入ってくる。
「靭帯損傷だそうだ。怪我している事をしらなくて...すまん。」
素直に謝るのが彼らしい。
「ははっ、いいって。いちいち闘う相手の事を気遣う奴がいるか。」
そういって挙げかけた手のギプスに、色々な文字が書いてあるのを見つけた。
えーと、なになに..?
「俺は聖域で2番目にかっこいい蠍座だZE !! だが1番は蟹座なんだっPI!!」
...お願いだから、のりP語はやめてくれ。
「因果応報。今後は私を拝みたまえ。」
...いや、そういう問題じゃないから。
「牛乳飲めよ!」
...おまえ単純過ぎ。
「このギプスの下は水虫です。伝染します...薔薇園に立ち入り禁止。」
...ちげーよ!!...つか巻いて一日とかでありえねえから!
「俺にエロ本を一ダース下さい。プリーズ!!プリーズ!!ギブミーブッカケ!!」
...おい誰だ...。
そのほかにもちょっと卑猥な事を表すマークやら何やらがごちゃごちゃマジックで書かれていた。
まあギプスした奴がよくやられる見舞いってやつだが、俺は同僚に恵まれすぎているのかどうなのだか解らなくなり、うんざりしてアルデバランを見ると更に済まなそうな顔をしてもごもごと言う。
「あー。みんなお前を心配してだな...。」
「...へいへい。」
悪のりしてる奴らを、止められなかったんだろう?
肩をすくめもう一度ベッドに寝転がりかけた俺に、アルデバランがそっと鏡を差し出した。
「...何?」
「裏側をみてやってくれないか?...さっきまで心配してついていたんだ。」
...裏?心配でついてた?...何だ?
と、思って自分の眼で追えないギプスの裏側を鏡に写す。
夕闇は深くなり文字は反対になっていたが、部屋の灯りでなんとか読み取ることができた。
「Tu es à moi」
チュ..エ ザ..モワ.. えーと、お前は私の...?
「お前はわたしのものだ、と書いたのだ。」
済まなそうに出て行ったアルデバランと入れ違うように。
上がり始めた月灯りに透かされた紅色の髪の親友が入ってくる。
「...おいカミュ、これ治るまでつけてろってこと?」
とんだ悪戯だ、罰ゲームだ。...こっぱずかしい事この上ない。
「全治3週間だそうだ、私はあと2日しか聖域に居られない。次に戻るのは半年後だ。」
そう言って拗ねた様にカミュはいう。
いつも強い視線をまっすぐ逸らさないお前が、ちょっとだけ下を向いて。
「...今日会ったお前はまた背も高くなっていて。強くなっていた。
まだ成長期の私たちは日々変化している。いつか私たちの関係も変わっていくかもしれない。」
真面目な顔でいうその白い頬はすこしだけ震えていて。
俺の躯を本当に心配してくれたのだと知れた。
頑な肩をぐいと抱き寄せ、動く右手をゆっくりとその滑らかな髪に滑り込ませる。
ほら、この感触は変わっていないじゃないか。
「馬鹿...だなあ。」
離れられる訳がないだろう?
そういって月が笑った気がした。
FIN
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